パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社

2023/03/20 システムコーチング

パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社

パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社は、2022年4月1日、パナソニックグループの事業会社制スタートに伴い、車載事業を担う事業会社としてスタートしました。国内外61拠点、従業員数約3万人、売上高1兆671億円(2021年度実績)のグローバル企業です。

エグゼクティブコーチ株式会社
代表取締役社長 鈴木あみ

パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社
取締役 副社長執行役員
水山 正重

チーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)、
新事業推進担当、車室空間ソリューション担当、
サイバーセキュリティ担当、知的財産担当


水山さん、改めてパナソニック オートモーティブシステムズ株式会社(以下、パナソニック オートモーティブ) 副社長のご就任おめでとうございます。本日は水山さんがパナソニック株式会社オートモーティブ社、開発本部長だった当時のお話から、副社長になられての今後について、お話をお聞かせください。

1.案件概要

<施策1年目(2018年)>

【対象】 昇格対象課長職
【期間】 半日研修×全6回×1クラス
【プログラム内容】 ヒューマンスキル(巻き込む力/関係性構築力/リーダシップ/コーチング)研修/社内共通言語化をつくる為の理解度テスト実施

<施策2年目(2019年>

【対象】 全課長職・全係長職
【期間】 半日研修×全6回×18クラス
【プログラム内容】コーチング(マネジメント)研修/社内共通言語化をつくる為の理解度テスト実施【対象】 上席技監・所長・部長
【期間】 全日研修×3クラス
【プログラム内容】  課長・係長向けコーチング研修 ダイジェスト版

<施策3年目(2020年)>

【対象】 上席技監・所長・部長・課長(一部)
【期間】 全日研修×17クラス(Aグループ8回/Bグループ5回/Cグループ4回) 
【プログラム内容】 システムコーチング/社内共通言語化をつくる為の理解度テスト実施

<施策4年目(2021年)>

【対象】 組織メンバー変更のグループ(所長・部長・課長)
【期間】 半年間 全4回
【プログラム内容】 システムコーチング/社内共通言語化をつくる為の理解度テスト実施
【対象】 30代~40代公募
【期間】 全日研修×実践期間1ヶ月を3回実施
【プログラム内容】 効果的な会議を実施する為のファシリテーター養成講座
【プログラム内容】 効率的な会議運営/ファシリテーター養成講座
【対象】 全社員からの公募
【期間】 2時間講演形式

2.導入背景

【水山さん】
2017年、社内にオートモーティブ開発本部が立ち上がり、私が本部長に就任しました。開発本部は、様々なカルチャーをもった複数の既存部署から500人強を集めてつくった部署で、発足当初、仕事の進め方や、マネジメント方針への共通理解が進まず、従業員満足度が低下し、初年度で志ある現場の若手メンバー達から、仕事のやり辛さ、疲弊感といった声が多く挙がるという事態が起きました。本来、会社の未来を切り拓き、夢をもって仕事をすべき部署をつくったつもりでしたので、非常に大きな危機感を持ちました。

【鈴木】
当初、パナソニック オートモーティブ様からお話を頂戴した際は、開発本部で課長職メンバーへ半年間で全6回のヒューマンスキル研修(巻き込む力/関係性構築/リーダシップ)及び、将来のリーダー候補を選抜したい、というお話を打診されたと記憶しています。初年度成果に好評を頂き、取組みが2年目に入った頃に、現場の課長や係長からの本音の声(若手メンバーからの声)が聞こえる様になったと記憶しています。

【水山さん】
複数の部署から集まったメンバーから、「上層部が~だから」、「上層部が変わらなければ組織は良くならない」、「話す言語が違う」、「なぜマネジメントを施すのか」といった疑問の声なども挙がっていましたよね。

 【鈴木】
上司レイヤーの方々から「きちんとしたマネジメントを」と依頼される一方、現場メンバーからは上司への不満や意見が上がる環境に、「今、組織に何が起こっているのだろう」と感じた事を覚えています。

3.実行概要

 【鈴木】
施策2年目は、初年度のコーチングやヒューマンスキルの研修で学んだスキルを、組織内へもっと広げたい。また部内で1on1ミーティングを始めるので、そのスキル付与をお願いしたいとの依頼を受けて、半年間で全6回18クラス、全課長、全係長にコーチング(マネジメント)研修を行う事になりました。その研修中、「このような研修を僕たちだけでなく、上層部も変わるべく動いてほしい」という声が挙がり始めました。担当者様へ相談し、不平不満の反対にあるのは組織に対する期待であり 『不平不満は宝物』、エネルギーである事を説明、ご理解頂いた上で、現場の皆さんの声を聞く場を設ける許可を頂きました。そこで出た意見をネガティブで終わらせず、前向きな課題に変える事、未来に向けてどうするのか、をご支援するのがエグゼクティブコーチの役割だと覚悟しました。

【水山さん】
最初のフェーズは、課題は組織の育成強化だと認識していました。しかし、開発本部で上司や組織への苦言が出ているとの報告を受けてからは、その課題が本部長である私のスコープに入る程の本質的な組織課題だと認識しました。組織風土とカルチャーを変えるべく、一気に危機感を増し、本件へ関わる様になりました。

 【鈴木】
少し話は逸れますが、多くの組織でも同様の課題が見受けられる中で、ボトムアップを求めても部下や組織に原因を押し付けたり、決裁者が本気で取り組んでいただけないケースを数多く見てきました。水山さんは、なぜその時に、現場の声と向き合う姿勢を持てたのですか?

【水山さん】
私も最初から、それ程危機感を持てた訳ではありません。 鈴木さんが社員の生の声を拾って率直に聞かせてくれた際に、大きな衝撃と共に「これではダメだ!」と、開発本部の未来を憂い、強い問題意識を持ったことを覚えています。社員の生の声を聞けた事が、この問題に向き合う重要な機会になりました。

【鈴木】
多くの組織では、上司は部下に一定の期待と課題を感じている一方で、部下は上司に対し不満をもっている事が多いと思います。そして同時に、上司がそれに気づけなかったり、気づいても部下側に問題があると考えるケースが多いものです。今回のパナソニック オートモーティブ様の場合も、当時本部長だった水山さんにそんな目が向けられていた状況だったと思います。それをどのようにお考えになられて解決に向かえたのでしょうか?

【水山さん】
当時の私や組織への不満は、定められたルールに基づいて会社に提案した事が通らない、またマネジメントに対し適応できないメンバーから不満が沸く、という状況だったと思います。そして、その不満や意見を、さらに中間層が上手く上へ挙げる事ができないという風通しの悪い状況であると理解しました。ただ、組織を預かる立場として、メンバーからの不完全な提案や要求を、そのまま受け入れるだけでは、組織の舵は正しい方向に向かない。そのような時、組織の重要な役割を担う中間層について、「彼らもただの組織の一部ではなく、1人ひとり違った感情を持った『人』なのだ」と考えました。彼らの不完全さを認め、現状を是として彼らの気持ちに寄り添ってやっていかなければ、組織は成り立たない。そのことに気付づかせてくれたのが、鈴木さんのシステムコーチングの機会でした。

【鈴木】
今思い返すと、当時水山さんが椅子に浅く腰掛け、両足を伸ばし腕を組んで座る「姿勢」を注意した事を覚えています。本部長がそのような座り方をしていたら、メンバーは委縮し、意見が言えなくなると思い、苦言を呈させて頂きました。そこから水山さんのメンバーへの態度が大きく変わり、メンバーから「トイレで会った本部長から、『お疲れ様』と声をかけてもらった」などの声が上がるようになりました。

【水山さん】
それまでの私は、部長やセンター長は役職と高い給料をもらっているのだから、ちゃんとやって当たり前だと考えていました。でも当時コーチングを受ける中で、彼らを人として認め関わらなければ、面従腹背が起き、組織は正しく機能しないという事に気づきました。

【鈴木】
3年目のシステムコーチングの施策から、本部長の水山さんがそこまで学び、考えを変えてくださり、行動に移して下さった事で、組織が大きく変わっていくのを感じました。正に『理感一致で人は動く』を体言してくださいました。1つ伺いたいのですが、組織の中で最も忙しかった水山さんが、当時、成果も未知数なシステムコーチングに、(18回実施中の9回に)参加してくださったきっかけを教えてくださいますか?

【水山さん】
先程お伝えした「座り方を正された」事がシステムコーチングのエントリーポイントだったと思います。次にメンバーの生の声を聞き、危機感を持ったこと。その時に、中間層が上からの圧力で現場に対し風通しの悪い行動を取ってしまっている事を想像し、それに対し、この組織の課題を解決するのにシステムコーチングは有効である、と判断しました。 中間層が伸び伸びと仕事をしてくれる環境をつくる事が当時の開発本部を立て直すポイントになると思いました。また、当時の上の役職者はできて当たり前、との考えを改め、「彼らもまた人であり、急に成長する事はない」のだから、「彼らの気持ちを大切にして徐々に変わっていかなければ組織は上手くいかない」、という事をシステムコーチングから学びました。

【鈴木】
システムコーチングでは、上司がメンバーからの本音を聞く場があったり、実際の会議の録画映像から、ご自身の態度や言動を振り返ってもらうという時間がありました。その中で、水山さんが大変だと感じられた部分はありますか?

【水山さん】
「ランクの復讐※」というセッションがあったかと思います。 メンバーからの声を通じて、自分が会社の立場(ランク)によって指示を通していたのであって、必ずしもメンバーが100%賛同してやっていたわけではなかったのが実態だったんだなという事実への直面でした。それは大変受け入れるのが苦しかった事を覚えています。

※社会的な地位や役職、経済的状況など役割でもたらされるパワーや、組織のポジションや、ジェンダー、年齢、宗教、健康、人種、性的志向、容姿など、自分が持っているランク(パワーや能力、特権による影響力)を、自覚せずに乱用すると、そのパワーに抑圧された周囲からの復讐が起きること。

【鈴木】
そんな中で水山さんは最後までシステムコーチングに関り続けてくださいました。結果、開発本部の組織に変化が生まれたのだと感じています。

4.成果

 【水山さん】
システムコーチングの目に見える成果の一つとして、従業員意識調査の数値が物凄い幅で改善したということが挙げられます。まず最初の段階として、部長クラスの数値がパナソニックグループ全体の中でもトップクラスの数値となりました。これによって組織全体の風通しが改善したことも寄与したのだと思いますが、更にその次に組織全体の数値が、これまでどこでも見たことがないような幅で一気に改善しました。絶対値としてはまだまだ継続して改善をしていかなければなりませんが、エグゼクティブコーチに関わって頂いてから3年後の従業員意識調査で、大変素晴らしい数値改善結果が出たことは、明らかな成果だと感じます 。この成果をまだ残る課題に活かして、さらに改善していけるよう、引き続き頑張ってきたいと思っています。

【鈴木】
システムコーチングから学べた事があるとしたら、どのような事でしょうか?

【水山さん】
色々とありますが、まとめると以下の8点ですね。

  1. 幹部と呼ばれる、それなりのレイヤーの責任者と言えども、人の子だということ
  2. 人の心を大切にすること
  3. こうあるべきを押し付けても、得られるものはない
  4. 正しい事を言っている事が最も適切だとは限らない
  5. 相手の立ち位置を見て、マネジメントをしないといけないこと
  6. 自身の日頃の微妙な立ち振る舞いが、周囲に大きな影響を与えるということ
  7. 信頼関係ができてきたら好循環のスパイラルにのれるということ
  8. 『私が上記の事を理解した』と、周りが理解できたこと

※システムコーチングの実施は、ダニエルキムの「組織の成功循環モデル」に繋がります

5.現在と今後

【水山さん】
今の課題として、1人ひとりが仕事に対するオーナーシップを持ち、こういう事を成し遂げたいと目標を掲げ、それに向かって日々自分で動いてくれる。自発性、自律性、コミットメントがより発揮できる環境をつくるにはどのようにしたら良いかを考えています。 例えば、「仕事の成果」と「自分の成長」の両方を感じられれば、よりやる気が出るでしょう。コーチング研修で学んだ、Will・Can・Mustの3つの円が重なる部分をどうやってより増やすか、現行の施策に加え、まだまだできる事はあると感じています。 現在、パナソニック オートモーティブの副社長となり、私が管轄する部門は、新規事業、デザイン、先端技術など、仕事自体に魅力を感じられるものが多くあります。それに関わるメンバーのエンゲージメントはもっと上がっていい。私が技術者時代に当時の上司にWillを存分に聞いてもらった体験や、「仕事の成果」と「自分の成長」を同時に感じる、自分自身の成功体験を感じられる環境をつくりたいですね。

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